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「選択的夫婦別姓を考える」

「選択的夫婦別姓を考える」

5月29日(土)川口市にて『選択的夫婦別姓を考える』の講師をしてきました。コロナ下での開催でしたが、実際に足を運んで下さった方が25名、終了後もバラエティに富んだ質問をたくさんしていただき、皆さんの関心の高さがうかがえました。

以下、少しだけその内容抜粋してお伝えします。

 

1 法律で定められた夫婦別姓

日本では、民法750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と規定されています。別姓も選択可能な国際結婚を除き、法律的に「結婚」するためには、夫婦のどちらかが姓(名字)を変えなければなりません。

また、戸籍上も、74条1号で婚姻届を提出する際には、「夫婦が称する氏」を記載して、届け出なければならない。とされています。すなわち、夫婦が称する氏を、夫の氏か、妻の氏いずれかに選択しないと婚姻届を受理してもらえません。

日本は先進国で唯一「夫婦の同姓」を強要する国だと言われています。

 

2 妻の姓を選ぶカップルは、わずか4%

民法の条文は「夫又は妻の氏を称する」となっていますが、平成28年度人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」調査(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/konin16/dl/01.pdf)によると、平成27年婚姻件数63万5156件のうち、妻の姓を選んだのは2万5400組で、全体の4.0%。

女性にとっては、「結婚=姓を変える」ことが避けて通れない問題となっています。

 

3 我が国における氏の制度の変遷

 もっとも、実は、夫婦同姓の歴史はそれほど古くはありません。身分制度がありましたので、一般の人が姓を名乗れるようになったのは、明治時代に入ってからのこと、徴税や兵籍管理のため、戸籍制度を整備するために導入されたと言われています。

また当初は、妻は結婚後も実家の姓を名乗るとされましたが、明治31年(1898年)民法で「家」制度を導入し、夫婦ともに「家」の氏として同氏を称することとなりました。すなわち、日本において夫婦同姓の歴史は、わずか123年ほどということになります。

 

4 選択的夫婦別姓導入に対する意見

⑴ 賛成意見・反対意見

選択的夫婦別姓については、以下のような意見が聞かれます。

① 賛成意見

・自分の名字に愛着がある

・男女平等につながる

・名字が変わることでの手続の大変さがなくなる。

・選択肢が広がるのはいいこと

・途中で名字が変わることで、キャリアの積み上げが絶たれる。

② 反対意見

・子供にとっては同姓がいい。

・旧姓を通称として使用すれば問題ない

・結婚の意義が薄くなり、離婚が増える、夫婦の一体感を損なう。

・結婚後は家族として同姓にすべき

・誰と誰が家族なのかわかりにくい。

⑵ 世論調査の結果

http://www.moj.go.jp/content/001271412.pdf

平成29年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の結果では、「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」と答えた方の割合が29.3%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた方の割合が42.5%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」と答えた方の割合が24.4%となっていますが、この間、女性の社会進出がさらに進み、男女が対等なパートナーとして家事や育児で協力し合うライフスタイルも増えつつある中で、選択的夫婦別姓を求める声は強まっています。

 

5 夫婦別姓訴訟・令和3年4月21日東京地裁判決

そして、つい最近、大変話題になった判決のお話しです。

⑴ 事案の内容

本件は、アメリカ合衆国のニューヨーク州において別姓のまま婚姻を挙行したとする原告らが、千代田区長に対し、「婚姻後の夫婦の氏」につき「夫の氏」と「妻の氏」のいずれにもレ点を伏した婚姻の届書を提出して婚姻の届出をしたところ、民法750条及び戸籍法74条1号に違反していることを理由として不受理とする処分を受けたことから、被告に対し、⑴主位的に、戸籍法13条等に基づき、戸籍への記載によって原告らが互いに相原告と婚姻関係にあるとの公証を受けることができる地位にあることの確認を求め、⑵予備的に、①憲法24条等に基づき、被告が作成する証明書(戸籍への記載以外の方法によるものと解される。)の交付によって原告らが互いに相原告と婚姻関係にあるとの公証を受けることができる地位にあることの確認を求めるとともに、②外国の方式に従って「夫婦が称する氏」を定めないまま婚姻した日本人夫婦について、婚姻関係を公証する規定を戸籍法に設けていない立法不作為は憲法24条に違反するなどと主張して、国家賠償法1条1項の規定に基づき、慰謝料各10万円の支払を求めていた事案です。

⑵ 判決の概要

令和3年4月21日、東京地裁は婚姻関係を戸籍へ記載できることの確認といった請求を却下・棄却した一方で、「民法750条の定める婚姻の効力が発生する前であっても、…婚姻自体は、有効に成立している」、「(婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。と規定する)通則法24条2項は、外国に在る日本人が『夫婦が称する氏』を定めることなく婚姻することを許容しているものと解さざるを得ないのであり、そのような場合であっても、その婚姻は我が国において有効に成立しているというほかない」と判示し、アメリカで成立した2人の婚姻関係については国内でも有効であることを認めました。

国は、「『夫婦が称する氏』を定めていないため、我が国において婚姻が成立していない」と主張していましたが、裁判所は、「婚姻挙行地である外国の方式に従って、『夫婦が称する氏』を定めることなく婚姻が挙行されることは、当然に想定されている」「婚姻自体は成立しているものと解するほかない」と述べ、国の主張を明確に否定しました。

⑶ 本判決を受けた今後の展開

原告及び弁護団において、本判決は控訴しないことが決定され、本判決は令和3年5月7日に確定しました。

外国で結婚する場合、その国の方式に従って結婚していれば、婚姻年齢等の日本民法が定める実質的婚姻要件を満たす限り、別姓のままでの結婚も有効に成立していることは、戸籍実務や相続実務などでは知られていましたが、本判決によって、この点が改めて明らかになりました。

なお、本判決は、まだ決定して間もないので、今後、本判決の評釈や戸籍への記載についての議論状況を注視する必要があります。

この点、本訴訟の弁護団は以下のようにコメントしています。

「本判決は、訴えそのものは斥けましたが、別姓のまま婚姻関係にあることについて、戸籍への記載ができないと判断したわけではありません。

本判決は、戸籍記載の可否については判断を示さず、手続きの異なる家庭裁判所への『申立てを通じて、婚姻関係が戸籍に記載され、戸籍の謄本等の交付を請求することもできるようになり得る』として、その可能性があることを指摘しています。」

「本判決は戸籍への記載を否定したわけではなく、むしろ、戸籍法に基づく家裁への申立の方法によって婚姻関係が戸籍に記載され得ると判断しましたので、今後は、家裁への申立をする方向で検討することとしました。

家裁においては、別姓のまま外国においてその国の方式でした結婚について日本国内でも有効に成立している(「法律婚」である)との本判決の判断を前提に、戸籍への記載の方法等について審理・判断されることが期待されます。」としています。

 

この判決の影響をどう見るかについては、今後に持ち越されますが、いずれにせよ選択的夫婦別姓制度の早期実現の必要性がまた一層明らかになったということはいえると思います。

(弁護士 南木ゆう)

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