スパイ防止と国策落語

 国策落語をご存知でしょうか。
 戦前の日本で、当時の講談落語協会などは、遊郭や妾の噺、不義・好色な噺などを自粛しました。「はなし塚」を作って葬ったなどとして、最近も報道で取り上げられることもあります。
 同じく、国策(戦争遂行)に奉仕する国策落語が、この時期にいくつも作られました。
 その一つに「スパイ狩り」という演目があります。
 内容は、ある工場で機械の図面が盗まれたが、それは、従業員のなかにいたスパイの仕業だった(だから、みんな、身近に潜むスパイに気をつけろ)という話。
 「まくら」には、「スパイのせいで、郵送船が海底の藻屑となり、1063人の勇士が護国の花と散った。」「スパイは、けしからん」と話が盛り上がり、床屋の主人がスパイだった例もある、近所にも目を光らせようという話になり、「あっしは明日からスパイ狩りに行きます」毎日ひとりずつでもスパイを捕まえれば、お国のためになる」などという話もされたそうです。
 落語なのに、笑えない話です。
 私の世代(1961年生れ)は、今の若い方と違い、「スパイ防止」というと、何やら「うさん臭さ」を感じてしまいます。親の世代が、「スパイ防止」の名のもとに、近所や知人をも疑い、監視させられた社会に生きていたから、その空気を、なんとなく感じ取るのかもしれません。
 この原稿は、「国策落語はこうして作られ消えた」(柏木新著、本の泉社)を参考にしました。

UnsplashJosefinが撮影した写真

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